D-アラビナンを完全にD-アラビノースに分解するための4種の酵素を発見し、それらの遺伝子を突き止めました。さらに、そのうち3種類の酵素の結晶構造解析に成功し、これらの酵素のD-アラビナン分解の反応メカニズムを詳細に明らかにしました。D-アラビナンは、結核菌をはじめとした抗酸菌の細胞壁を構成する糖脂質であるリポアラビノマンナン(LAM)や多糖であるアラビノガラクタンを構成するD体のアラビノースが繫がった複雑な多糖です。D-アラビナンを有する抗酸菌にはマイコバクテリウム属、ノカルディア属、ロドコッカス属などが含まれます。このうち、病原性を持つ菌は結核菌などのマイコバクテリウム属の一部だけであり、D-アラビナンを有する抗酸菌の多くは病原性を持たない一般土壌細菌として土壌や水辺など広く生息しています。なお、植物のアラビノースはL体の鏡像体ですので、既に知られているアラビナン分解酵素はLだけに作用し、D-アラビナンを分解することはできません。このようなD-アラビナンを分解する酵素endo-D-arabinanaseは、1971年に大阪大学歯学部の小谷尚三教授らが初めて見つけて報告しましたが、その後50年以上もの間、クローニングが行われず、酵素の機能解明は進んでいませんでした。我々は、小谷教授らが用いた土壌細菌M-2株(現在の名前はMicrobacterium arabinogalactanolyticum JCM 9171株ゲノム配列情報GenBank: BRZC01000007.1)の培養液の中からendo-D-arabinanaseを分離・精製して、その遺伝子(EndoMA1とEndoMA2)の同定に成功しました。また、近傍遺伝子のクローニングと性質決定を進めた結果、GH183 endo-D-arabinanaseによって切り出されたオリゴ糖をM-2株の菌体内に取り込んでD-アラビノースにまで完全分解するために必要な酵素であるGH172 exo-α-D-arabinofuranosidase (ExoMA1)とGH116 exo-β-D-arabinofuranosidase (ExoMA2)をコードする遺伝子のクローニングと性質決定及び、結晶構造解析に成功しました(図)。
Shimokawa, M., Ishiwata, A., Kashima,T., Nakashima, C., Li, J., Fukushima, R., Sawai, N., Nakamori, M., Tanaka,Y., Kudo, A., Morikami, S., Iwanaga, N., Akai, G., Shimizu, N., Arakawa, T., Yamada, C., Kitahara, K., Tanaka, K., Ito, Y., *Fushinobu, S., *Fujita, K.: Identification and characterization of endo-α-, exo-α-, and exo-β-D-arabinofuranosidases degrading lipoarabinomannan and arabinogalactan of mycobacteria. Nat. Commun., 14, 5803 (2023).
doi: 10.1038/s41467-023-41431-2
詳細は鹿児島大学研究トピックと東京大学大学院農学生命研究科研究成果をご覧ください。
GH183 endo-D-arabinanase (EndoMA1;MIAR_33230, EndoMA2; MIAR_33270)
Endohydrolysis of (1→5)-α-D-arabinofuranosyl links in D-arabinan core structure of lipoarabinomannan and arabinogalactan
CAZy (GH183) EC3.2.1.226 GenBank(EndoMA1) GenBank(EndoMA2) PDB 8HHV 8IC1(complex)
GH172 exo-α-D-arabinofuranosidase (ExoMA1; MIAR_33200)
Hydrolysis of terminal non-reducing α-D-arabinofuranoside residues in α-D-arabinosides
CAZy (GH172) EC3.2.1.225 GenBank(ExoMA1) PDB 8IC8
GH116 exo-β-D-arabinofuranosidase (ExoMA1; MIAR_33200)
Hydrolysis of terminal non-reducing β-D-arabinofuranoside residues in D-arabinosides.